先週の土曜日(12月13日)、下北沢で開催された「カラフルな俳句、不思議な眼をした鳥たちのこゑ 『凧と円柱』刊行記念」というトークイベントを観に行きました。青木亮人さん、鴇田智哉さん、田島健一さん、宮本佳世乃さんという錚々たるメンバーが揃い、鴇田さんの句集『凧と円柱』の話題をメインに俳句のいろいろについて語り合う、というイベントでした。詳しくはこちらをご参照下さい。
で、このトークの内容というのが実に興味深いものでして、特に『凧と円柱』についての話は、私が俳句について日頃考えていることを明確に立証してくれたので、目から鱗がぼろぼろと落ちていくような思いで聴いていました。
じゃあ、「私が俳句について日頃考えていること」って何よ、となるわけですが、これを説明しようとしたところ、実はかなり細かな定義づけから始めなければならないことに気がつきまして。こんな荒唐無稽な話、誰にもわかってもらえないんじゃなかろうかと思いつつも、どうにか文章にまとめてみた次第です。
以下、件のトークイベントで得られた収穫について語るためにはどうしても必要な、長ったらしい「前書き」です。文系ではない頭で作った話なので、突っ込みどころ満載だと思われますが、もしご興味がおありでしたらご覧下さい。面白くなかったらごめんなさい。
■基本となる考え方:「言語ネットワーク空間」について
1.単語ノード
- 言語で使用される単語は、多数の基本的概念を軸とした多次元ベクトル空間内の点(「単語ノード」)として表現される。
- 仮にAという単語ノードがあった場合、その人にとって概念がAに近いとされる単語ノードは、Aと空間的に近い位置に置かれる。
2.リンク
- 各単語ノード間には、関係性を表すリンクが形成される。
- リンクは距離と強度と方向を持っており、一般常識によって形成される場合もあれば、その人の学習・経験によって形成される場合もある。
- 一般的に、リンクの強度はその距離に反比例する。
- リンクの強度は、その人の学習・経験によって変化する。
- リンクには、意識的に認識可能なものと、意識的に認識することができない無意識レベルのものが存在する。
3.連想
- 単語ノードAからリンクされた単語ノードBへ向かうことを、「AからBを連想する」と呼ぶ。
- 連想の強度は、リンクの強度に比例する。
- 単語ノードAからの連想は、単語ノードBを経由して他の単語ノードへと連想を継続することができる。
- 連想は、一つの単語ノードからリンクした複数の単語ノードに対して同時に行われる。
- 連想は、意識的リンクと無意識的リンクの区別なく行われる。
4.言語ネットワーク空間
- 単語ノードとリンクによって構成されるネットワークを「言語ネットワーク空間」と呼ぶ。
- その人が持つ言語ネットワーク空間は、複数のより小さな言語ネットワーク空間によって構成される。これらの小さな言語ネットワーク空間を「言語サブネットワーク空間」と呼ぶ。
- 言語サブネットワーク空間は主に一般常識によって構成される他、その人の学習・経験によって新たに構成される場合もある。
- 一般常識、経験、使用言語、文化、風土、大脳の遺伝的器質等が類似する集団では、類似した言語サブネットワーク空間が構成される場合がある。この言語サブネットワーク空間を「言語アーキタイプ」と呼ぶ。
5.単語を理解するということ
- 例えば人物Xが人物Yに対してAという単語を提示した時、「単語Aを理解する」とは、その単語ノードAを中心とした言語サブネットワーク空間の構造をXとYの間で共有することであると考えられる。
- ここで、「単語ノードAを中心とした言語サブネットワーク空間の構造」を「単語Aの概念空間」と呼ぶことにする。
- Xが認識している概念空間の構造とYが認識している概念空間の構造は、必ずしも完全に一致するわけではない(むしろ一致しない方が当然である)。だが、その空間を構成する単語ノード群とリンク構造はおおよそ似たものであり、それ故にXとYは単語Aに対する相互理解の下でコミュニケーションを取ることができると考えられる。
6.季語の導入
- 季語を受け入れるということは、季語と呼ばれる単語群をその人の言語ネットワーク空間に追加導入することである。
- 季語を導入する際には、既存の単語ノードとのリンクの生成が必要であり、また必要に応じて既存の単語ノードの再配置やリンクの再調整を行なう必要がある。この工程を困難に感じる場合、「俳句って季語とかあってめんどくさい」という感想に繋がると考えられる。
- 季語を導入すると、その単語による概念空間を定義することができる。この概念空間は主に意識的リンクによって形成され、言語アーキタイプの一種として認識される。
7.俳句における季語の利用
- 俳句において季語を使用するということは、読者に対しその季語による概念空間の共有を求める行為であると考えられる。
- 前述のとおり、概念空間は複数の単語ノードとそれらのリンクによる言語サブネットワーク空間である。これらを概念のベクトルによって表現しようとすれば、数多くの記号が必要になる。また、概念空間を別の単語によって表現しようとした場合、それらの単語による概念空間を合算していくことになり、辞書の解説を辞書で引くかのような概念の爆発を生じかねない。
- 季語による概念空間の共有とは、平たく言えば季語が持つイメージの共有である。季語によってイメージを共有し合う時、例えば作者Xと読者Yとの間にはある程度の大きさの言語サブネットワーク空間を共有することになる。つまり、イメージの説明を省略することができる。また、ネットワーク構造を共有することにより、他の言語サブネットワーク空間への連想の発生を予期させることができる。
- 季語を用いることにより、一定量のイメージ伝達を最小限の情報量で行なえる他、そこから別の言語サブネットワーク空間への連想を補助することができる。これは俳句という極めて短い短詩形において有用な仕組みであると考えられる。
8.概念空間のメタ構造としての俳句とその理解
- 厳密な文法解釈を省略すれば、俳句は主に単語とそれらの関係性によって記述できる。これを言語ネットワーク空間内で表現すると、各単語が構成する概念空間とそれらを結合するリンクとして記述することができる。これは言語ネットワーク空間上での二次的なメタ構造であり、これを「概念ネットワーク」と呼ぶことにする。
- ある句が構成する概念ネットワークを読者の言語ネットワーク空間内に投影することを、「句を読む」と定義する。
- 句を読んだ時に、その概念ネットワークの構造と読者の言語ネットワーク空間(の部分集合)の構造に類似性が見られた場合、これを「句を理解する」と呼ぶことにする。また、類似性が見られない場合、これを「句を理解できない」と呼ぶことにする。
- 類似性を測定する方法はいくつか考えられるが、複雑な計算を要すると思われるので、ここでは詳述しない。
9.俳句の理解の形式
- 句の概念ネットワークが主に一般常識による意識的リンクによって構成されている場合は、読者の言語ネットワーク空間内に類似した構造が見られる可能性が高い(要するに、常識の範囲内で「理解できる」)。
- 句の中で季語が用いられている場合は、季語による概念空間を共有することによって句の概念ネットワークとの類似性が強まると考えられる。
- 句の概念ネットワークが言語ネットワーク空間に投影される際に、概念ネットワーク内のリンクが言語ネットワーク空間内に新たなリンクとして導入され、そのリンクを中心とした新たな言語サブネットワーク空間が形成されることがある。このような状態を「発見」と呼ぶことにする。
- 発見は、騙し絵の中に別の図形を見出すことと似ているので、一種のゲシュタルト変換とも言える。
- 発見が生じるパターンはいくつか種類があると考えられるが、ここでは詳述しない。
- 句の概念ネットワークの構造が言語ネットワーク空間内の無意識的リンク構造と類似した場合、意識的に句を理解することはできないが、理解に似た状態を生ずることがある。これを「無意識的理解」と呼ぶことにする(簡単に言えば「何となくわかる」状態)。
- 言語ネットワーク空間内に無意識的リンクが新たに導入される「無意識的発見」が起きる可能性もある。この場合、無意識的リンクが一時的に意識上に出現し、一種の「アハ体験」が生ずるものと思われる。
- 一般的に「句が理解できない」状態とは、主に言語ネットワーク空間内の意識的リンク構造との類似性が低く、かつ発見が生じない状態を指すと考えられる。
……以上、未完成な部分がたくさんありますが、どんなものかお分かり頂けましたでしょうか?
なお、「詳述しない」部分については、定義し始めたら1ヶ月じゃすまないくらい時間がかかりそうなので飛ばしました。というか、この概念を綿密に定義していったら本物の「論文」になりかねないので(笑)
(実を言うと、本物の「論文」にしたいという野望はあったりします。実装するアイデアはあるので、どこかの大学とかで研究させてくれないかなぁ……などと思いつつ、今日はこの辺で。)