作戦終了から20年、
X-LAY 3号機のパイロットは、奇跡的に生きていた……。
記憶を失い、人格を破壊されたままの、
もう1人の『彼女』に対する……医師の償いが始まる。


 ――この物語は、第4の仮説に続く、第5の仮説として立案されましたが、あまりにもレイフォースのエンディングから逸脱しているため、外伝として独立させました――

−MNT−


 M.C.0205──
 “OPERATION RAYFORCE” から20年、コン・ヒューマンの誕生からは2世紀以上の年月が流れていた。
 本星の破壊により、人類に対する脅威は去った。求心力を失った各惑星自治体間には、不穏な動きも散見されたが、世間一般の人々は、遅々とした復興の中で、平和な日々を送っていた。
 
 人類の歴史を記録するためにか、過ちを繰り返さぬよう学ぶためにか、あるいは、コン・ヒューマンの戦闘力を分析して、後の兵器に応用しようとするためにか? ──理由と思惑は多々あったが、かつて本星が存在していた空域に、調査団が派遣されたのは、ようやくこの年になってからだった。
 あまりに多すぎる残骸、まさしくガレキの山……得るべきものなど何もなさそうに見えたし、あったとしても探し出す事はできまい──と思われていた。
 ところが、探索隊の1つが、辛うじて原形をとどめていた、青い機動兵器を発見した。
 外装の損傷は激しく、機体の識別コードは “RV” から先が判読不能だった。
 にも関わらず、機体上面及びコックピット部は、周辺ほどには破損しておらず、青いパイロットスーツを着た、銀色の髪の若い女性が、目を閉じてきれいに座っていた。
 宇宙空間で無事とは生身ではない、それに首から伸びているコード──戦闘用サイボーグと推察される。
 慎重に彼女を検査していた作業員が、大きな驚きの声をあげた。

信じられん、生きているぞ!!」

 
 ──幸運だったのは、機体の損傷状況もさることながら、脳と脊髄以外を全て機械化されていたために、宇宙空間でも耐え得た事と、絶対零度の真空が、彼女を仮死状態で保存する役割を果たした、という事だった。
 ……だが、意識を取り戻した彼女は、自分の名前も含めて、過去の記憶の一切を持っていなかった。
 放っておくと誰とも話さず何もせず、ただ人形のようにじっとしている。
 けれど、誰かがたわむれに雑用を命じてみると、「嬉々として」と言いたくなる程素直に命令に従う。
 そこで現場の男たちは、これ幸いと、彼女に炊事・洗濯・掃除の役割を与えた。
 しかし女房ではあるまいし、こんなに素直な女の子を、名もなく「おい」でこき使うのは、可哀相だ──彼らは話し合って、彼女に仮の名前を付けた。
 宇宙を風に乗ってやって来たようだから、空気の如き存在感のなさだから──…「Airy」=「エアリー」、と。
 
 そんなある日、彼らの所に、1人の壮年男性がやって来た。
 ――20年前、X-LAY 2号機のパイロット:「レイ=バーミリオン」を担当していた、あの医師だった。
 髪には白いものが相当に交じり、体格はそれなりにがっしりとなり、顔にも年齢が加わっていたものの、悲しみをたたえた瞳の、少年のような輝きは、今も失われてはいなかった。
 その目に、仕事がすいて、ぽつんと壁際に座っていた、エアリーの姿が飛び込んだ。生気のなさを除いては、彼が知っていた3号機のパイロットと、何等変わらぬ姿が。
「───……!」
 思わず彼は、涙を浮かべて彼女の許へ駆け寄り、その身体をかき抱いた。
「……良く……生きていてくれた……、『───』……いや、今は、『エアリー』か」
 彼女は、何も感情のこもらない声で言った。
「あなたは──誰ですか?」
 医師ははっとなって腕を離し、彼女の顔をまじまじと見つめ、それでも表情に何の変化も表れないのを見ると、辛そうに目を閉じて、かぶりを振った。
「君は──本当に何もかも、忘れてしまっているんだな……」
 彼は、なすがままにされている彼女の手を取って、言った。
「帰ろう……、本来の君がいたところへ──」
 
 医師は、20年前、軍が彼女に何をしたかを知っていた。
 外惑星連合宇宙軍は、本当にあらゆる可能性を模索していた。
 せめて人間本来の部分を大切にしてあげよう、としたのが2号機のチームならば──少しでも高い成功確率を得るために、全く逆をやったのが、3号機のチームだった。
 ──崩壊して戦闘に支障を来すような自我なら、あらかじめ破壊しておけばいい!
 各種の薬物や強力な催眠暗示によって、「治療」と称する洗脳をほどこされ、命令に従わなければ、C.L.S.端末から脳に直接苦痛を与えられ───
 戦闘以外の総てを捨てよ。それが君が生き延びるためなのだから。……誰よりも強かった、人間らしい生への執着を、逆に利用されて、彼女は戦闘マシーンへと、造り変えられていったのだ。
 あれから20年も経つのに(仮死状態であった彼女が、時間の経過を認識していたかどうかは分からないが)、作戦完了にも関わらず、彼女は「命令に従う」という暗示から、抜けられないでいる。しかも本星爆発のショックからか、記憶まで失って!
「気分はどうだい?」
 彼女を引き取り、まるで父娘のような生活を始め、時折彼は彼女に聞いてみる。
「気分はいいです。──いつも、同じです」
 花が咲き、蝶が舞う公園の片隅で、エアリーは素直に微笑む。でも、その目に、かつての彼女が持っていた、生命力に満ちた鋭い光は、宿っていない。
「でも、仕事もせずに、こんな事をしていて、いいんですか?」
「──いいんだ、いや、逆なんだ。もう命令になんて、従わなくていいんだよ。それより──君は昔の自分について、何か思い出したかい?」
「何も……。時々、夢のようなものを見る事はありますけど、目が覚めたら忘れてしまっています」
「少し、意識しておく様にしたらどうかな。本来の自分を取り戻すために──」
 エアリーが、不思議そうな顔で口にする。
「……何故、取り戻さなくてはならないのですか?」
 何の感情もなく、医師をただ見つめるその瞳は──極めて良く磨かれた、ガラス球だった。
「──家事手伝いの前に、わたしは全く別の事をしていたらしいですけど、それが分からなくて不安だとかって、全然思わないんです。わたしは、命令に従う機械で──今のままで十分幸せです。……それとも、取り戻した方が、もっと幸せになれるんですか?」
「……──」医師は口をつぐむしかなかった。
(取り戻したら幸せになれるんですか?)
 取り戻さない方が、余程幸せかもしれない。戦闘と洗脳の苦痛の記憶など──。このままそっとしておいた方が、彼女のためかもしれない。
 しかし──
「それは偽りの幸せだ」と、医師の心のどこかが叫ぶ。
 表情も言葉遣いもまるで違っていた、20年前の彼女。その、生き生きとした輝きを、取り戻させてあげたくて。暗示の呪縛から、解き放ってあげたくて。
 ……それも違う。
 本当は、自分自身の罪悪感を、軽くしたいだけなのだ。
 エアリーの微笑みに──自分が暗示を与えた時の、「レイ=バーミリオン」の本当に幸せそうな顔が、オーバーラップする。
 ああやって、死んでいってしまった『彼女』の、せめて代わりに、彼女にかけられた暗示を解く事で、自分の罪を、少しでも贖う事ができるのではなかろうか。
 ……『彼女』に償いをする事はできない、自分が生きている限り、罪悪感を抱え続けていくしかないのだろう、と思っていた。もう誰も巻き込まぬよう、たった独りで。
 しかし、もう1人の『彼女』が、奇跡的に、生きて自分の前に姿を現わしてくれた。
 これは文字通り、「天」が与えてくれた、罪を償うための、最初で最後の機会ではないかと思える。
 別れの時の、小さく笑った『彼女』の口元は、脳裏に焼印のように刻まれて──20年を経た今もなお、自分を責め続ける鮮明さを、少しも失ってはくれない──
『彼女』は、少年は許したけれど、自分は許さなかったのではないだろうか……?
 
 医師はエアリーに考えられる限りの手を尽くし、催眠誘導も何度となく試みた。だが、強力極まりないマインド・コントロールは、ほとんど解ける兆しを見せなかった。
(やはり、駄目なのか……、もっと強い薬物がなければ──)
 

 満開の桜並木の下で、子供を連れた女性は、医師を待っていた──。
「お久し振りね」
 時折舞い降りる花びらを、柔らかな日差しが照らす中で、医師に微笑みかけたその女性は、「レイ=バーミリオン」が目覚めた時に最初に見た人物、サリス=ブルームその人だった。年齢相応の外見にはなっていたが、愛らしい雰囲気は、20年前とほとんど変わってはいない。
 一通りの挨拶が終わると、サリスの背中から、利発そうな瞳をした少女が、ひょこっと顔を出して、容赦なく医師を眺め回し、無遠慮に言った。
「ふう──ん。この人が、ママの話に良く出てくる、ママが昔──」
 めっ、とサリスは少女の額を軽く弾いた。
「ママは少し話があるから、向こうで遊んでいらっしゃい」
 はぁーい、と背中を向けて、程なく付近の遊びの環に加わった少女を、ベンチに並んで座って眺めながら──
「彼女は、君の……?」
「そう、娘よ。今年ジュニアハイに上がったわ」
「素直な娘だ、笑い顔も若い頃の君に良く似ている」
「まぁ……私はあんなにあけすけでした!?」
 ひとしきり笑った後、サリスの方から話を切り出した。
「──3号機のパイロットが、見付かったそうね。事情はメールで読んだけど、肝心の3号機チームの反応はどうなの?」
「取り付く島もない」
 医師は嘆息した。
「20年も前の事を、今更ほじくり返すのはやめてくれ。責任者の大半は既に引退している。俺達にだって自分の生活があるんだ──とね」
「……無理もないわね。──それに──」
 彼女は彼の目を見ながら言った。
「──いまだに20年前を真面目に引きずっているのは、あなた位のものだわ!」
 医師が何も返答しないでいると、サリスは正面を向いてうつむいて──
「……本当に、もう20年も過ぎているのよ。私の娘だって、あんなに大きくなって。世代は確実に移り変わってきているわ。それなのに、あなたの心は、20年前から全然動いてない。──まだ、独り身でいるの?」
 医師は黙ってうなずいた。
「良く言えばあなたらしいし、悪く言ったら呆れたわ。2号機のパイロットを死地に送り込んでしまったからって、自分が幸せになってはいけないとでも思っているの!? いい加減、時効だわ! もう、過去から自由になってもいいのではなくて──!?」
「────」医師は彼女から目線をそらした。
「……あなた──やっぱり全然変わってない」サリスが悲しげな顔になって、ぽつりと口にした。
「ずうっとそうだった……あなたはいつだって、『レイ=バーミリオン』の方ばかり見ていて、私に振り向いては下さらなかった」
「……サリス──」
「もし、生きていたのが3号機じゃなくて、2号機のパイロットだったら──『彼女』の方だったら──私、嫉妬してたかしら……あは……私どうかしてる、何で涙が出てくるんだろぉ……」
 バッグからハンカチを取り出して、目頭を押さえる彼女の仕草は、20年前に戻ったかのようだった。
 申し訳ない、と頭を下げる医師に、涙を拭ったサリスは、気丈な表情で語った。
「3号機のパイロットを救う事で、あなたが少しでも楽になれるのなら──できる限りの協力はするわ」
 ありがとう、と医師は言って、彼女の頬に、そっと、口づけた。
 ざあっ、と、風が桜の梢を揺らし、2人の周囲に花吹雪を舞わせた。
 

 医師は緊張した面持ちで、手にしたアンプルを割って、薬物を注射器に吸い上げた。
 その中身は、20年前『彼女』に注射したのと同じ物だ。はっきり言って違法な手段を使って手に入れた。なお、彼がその薬物を入手できた裏には、サリスや、「せめてそれ位の事はしなければ」という3号機チームの、陰の協力があった、という事を、彼等の名誉のために付言しておく。
 エアリーの首に、あの時と同じように、薬物を注入する……薬の効果に加え、いつになく念入りに暗示を与えた結果、彼女は最深度の催眠状態へと入ったようだった。
「……エアリー、君は私の言う事なら、どんな事でもできる。君は、本当の自分を、軍に与えられた暗示で、封じ込めている。もう、誰も君を縛らないし、苦痛も与えない。だから、恐れずに、心の底にある扉を開けて、昔の記憶を取り戻すんだ」
「──本当の、わたし……? 昔の、記憶──」
 彼女がこのような事を口にしたのは初めてだ。いけるかもしれない! 医師の口調が一段と熱を帯びた。
「そうだ。そこに今の君より、もっと素晴らしかった君がいる! 今こそ、思い出すんだ───さあ!!」
 ビシ!! と、部屋中の空気が裂けるような感触がした。
 次の瞬間、エアリーはカッと目を見開いて上を向き、凄まじい悲鳴をあげた。
 どんなに自分の考えに埋沈した、あるいは寝呆けた人間であっても、一瞬で正気に戻って、何があったか知らないが、聞くにはとても耐えられないから、お願いだからやめてくれ!! と、相手にすがり付いて懇願したくなる悲鳴──引き裂かれた魂のあげる叫び声だった。基調となっている音は、「ア」と「ギャ」が入り交じったようなものだが、この絶叫を、五十音とローマ字だけで、正確に表現する事は不可能だろう。
 彼女は深い催眠状態から、覚醒状態を一足飛びに超えて、錯乱状態にまで達していた。
 無理もない、これまで波風一つ立たない湖水のようだった心に、突然、記憶と感情の嵐が甦ったのだから。
「──苦しい、頭が割れ……っ、誰か救け───!! わたし、壊れちゃう……!!」
 頭を掻きむしり、かと思うと滅茶苦茶に手足を振り回す彼女を、医師は全身で押しとどめた。
「耐えるんだ、踏ん張るんだエアリー! 一生そのまま暗示の殻に、閉じこもったまま生きるのか!? 今のが本当のお前なんだ、軍に与えられた暗示から自由になって、自分自身を、取り戻すんだっ──!!」
 サイボーグ体の力は凄まじく、医師の身体の何箇所にも、筋が千切れる激痛が走った。それでも彼は、彼女を抱き締める力を、少しも緩めようとはしなかった。
 エアリーの視線が、一筋の糸のように空を凝視した。
「──わた──し──…、あたし、は───」
「そうだ、それがお前だ! あと一息、自分を見つめて──」
 彼女は数瞬、身を細かく震わせながら、それをし続けた。が……次に彼女の唇から洩れた言葉は──
「──わたしは、戦闘機械……枠の中で生きている方が、楽…だから──…」
 エアリーの身体から力が抜け、目の焦点が、無限の彼方に向かって、遠ざかっていきそうになった。
「行くな──────!!」
 医師は絶叫した。そして彼女の身体を強く揺さ振った。
「お前は、お前だけは……っ、人として、生きろ!!」
 
 ──他の総てを消し飛ばして、意識を照らす閃光、甦る一つの言葉。
〈アナタハ、生キテ〉──
 エアリーの頭の何処かで、閉ざされていた回路が開き、生体電流が最大強度で流れた。
 彼女の身体は、雷にうたれたかのように、激しく痙攣し、硬直した。
 もはや人間の耳では聞き取れぬ、高い高い悲鳴がほとばしり──…それがふつっと途切れると、彼女は気を失った──その寸前、彼女の唇が、微かに一つの名前を呼んだのは、医師には見えない位置だった──彼は、バランスを崩したサイボーグ体の重量を到底支えられず、ズダァンッ!! と、もろともに床に叩き付けられた。
 数十秒の沈黙……
「……駄目……だったか」
 医師は、髪がぐしゃぐしゃになっている、エアリーの後頭部に向かって、疲れ切った表情でつぶやいた。
「──今更お前の記憶を取り戻す事で、罪を償おうとした私が、間違っていたのかもしれない……余計な苦しみを味わわせただけだったな……。エアリー、済まなかった……せめて、私が生きている限り、お前の面倒を──」
 と、彼女の背中が、泣くように震えた。
「気が付いたか、エア──」
「………思い……出した……」
 彼女のつぶやきが、医師の言葉をさえぎった。
「…………!?」
「……あの()は、あたしを救けてくれたのよ……。あの時……“OPERATION RAYFORCE” の最後、コン・ヒューマンの爆発で、一瞬正気に戻ったんだ……本星がフッ飛ぶ時、あの娘の機体があたしの前に出た──それが楯になって、爆風が弱まって、それで、あたしは……」
 涙声のつぶやきが続く……
「あの娘の声が聞こえた……端末からだったのか、音声だったのか、それとも頭に直接響いたのか分からない──でも、確かに聞こえた……!」
 一語一語を区切るように、
「『私はもういい。だけど、あなたは、』」
 ひときわ、声を高くして!
「『あなたは、生きて』、って………!!」
「──『彼女』が……!?」
 医師が、信じられない、という顔で口にする。
 ──〈もう1つ、しなければならない事もあったし〉──
 ……「レイ=バーミリオン」は、自分に許しを与えるためにも、彼女の生命を救ったのだろうか。
 20年という懺悔の時間を経て、彼女の人格を取り戻す事で、自分の贖罪が、終わったのだろうか……?
《……神様─────!!》
 とめどなくあふれる涙で頬を濡らしながら、医師は全身で、再び彼女の身体を抱き締めた。
「……本当に……本当に良く頑張ってくれたな、エアリー──いや、本当の名前は……」
 彼女はくるっと医師の方を向くと、顔にいたずらっぽい笑みを浮かべて、勝ち気な瞳でウインクしながら、人差し指で医師の唇をふさいだ。
「本当の名前も、ちゃんと思い出したけど、ここにいるあたしは、『エアリー』だから。仕事場のみんなや、先生に良くしてもらった事──忘れてないよ!」
(──ああ───…!!)
 言葉にもならぬ至福の思いで、2人は互いを抱き合った。
 エアリーの身体は、機械ではあっても、医師の身体に伝わる感触は、人の温もりを、確かに感じさせた。
 
(……意識の底で、身動きすらできずに、久遠の闇を、ただ、見ていた──
 それが、突然激しい光が射して、総ての戒めを焼き切ってくれた。
 ようやく自由の身になれたあたしの目の前に、あなたがいた……
 〈目が覚めた?〉
 訳が分からないままうなずくと──
 〈良かった〉
 本当に嬉しそうな顔で、微笑んで──
 〈じゃあね〉
 と手を振って、宇宙の彼方へ、消えていった──…
 [いつか起きたら、また、会おう!]
 ……あの時の約束を果たすために、今だけ、舞い戻って来てくれたんだね………。
 ありがとう───、
 ありがとう………。)
 

 それからの2人がどうしたかと言うと───共にスペースコロニー建設の最前線へと赴き、医師は産業医に、エアリーは現場作業員になった。人が新たに住むべき場所を、創るのだ。
 さっぱりした気性の彼女は、すぐに現場の作業員と打ち解け、家事百般もこなせる作業員として、人気者だ。何しろ宇宙服なしでも現場作業ができるというのは、重宝されている。
 そして、時折は仕事の手を休め、目を閉じて幸せに、ゆらゆらと宇宙を漂いながら──それは高度にサイボーグ化された者だけの特権である──、遥か彼方に思いを馳せてみたりもする──…
 ……こうしてもう1人の自分は、今頃この広い宇宙のどの辺りを、旅しているのだろうかと。
 

〈END〉

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