1994年10月某日②

 会社からゲーセンに向かう途中の上り坂では、いつも色々な事を思い付く。何せ定時が18時だから、あたり一面すっかり闇の中、ライナーの「彼女」よろしく、歩きながらイマジネーションを解放して遊ぶ。きっと視覚情報が制限される事で、自分の中にある物が前面に出てくるからなんだろうね。今日は何が見えるかな……
 私が操作している X-LAYに乗っている「彼女」。苛烈な攻撃をくぐり抜けて目的地をめざす。しかし――ほんの一瞬、判断を誤って、気が付いたら避けられない弾幕の中にいた。迫る光弾、焼けてゆく機体、思わずあげる悲鳴は爆発にかき消されて――
 そこまで考えてしまって、慌てて今の思考を頭から追い出した。失敗した! 「彼女」の「死」なんて、考えたら人間に耐えられるようなものじゃない。それを正確に理解してしまったら、私は二度とレイフォースをプレイできなくなるような気がする。これ以上掘り下げてしまっては駄目だ。
 
 道中はまずかったけど、筐体の前に座ってしまえばしめたもので、今日もレイフォースを楽しんだ。最近は2コインでオーディンに対面できるようになっていた。しかし、なかなか抜けられない。先日弟に聞いてみた。
「SNGぅ―――、オーディンの第一段階のばらまき抜けられないんだけど―――」
「簡単だよ。イナズマ避けたら下にさがって、『道』を見付ければいい」
 ――これまでなす術なくブチ当たっていた弾幕に、その日、微かに「道」が見えた。左上斜め10時の方向、抜けたっ!! かつてなく X-LAYに入り込んだ自分がいた。だが、黄色い弾はアドリブでかわしたものの、速いレーザー、「まずいっ!!」
 ――そう思った次の瞬間、ふつっと総てが途切れた。Aボタンを連打して、コンティニューのカウントを叩き落としたはずなのだが、何一つ記憶に残っていない。ネーミングの画面を見て、ようやく我にかえった。……完全に、イッちゃっていた。本当の「死」というのは、案外こんなものなのかもしれない。悲鳴をあげる暇すらも与えられずに、一瞬の
うちに彼岸に渡っている  。宮部みゆきさんの「レベル7」という小説の一節を思い出して、背筋に冷たいものが走った。
〈レベル7まで行ったら、もう戻ってこなくてもいいんだよ――〉
 ……レイフォースだって7面までしかない。
 エリア7まで行ったら、もう戻ってこなくてもいいんだよ――。

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