1994年12月28日

 今日は1994年の仕事納め。これでもう今年は茗荷谷に通う事はない。すなわちゲーセンに通う事もない。――年が明けて母が入院したら、ゲーセンには通えなくなる以上、今日がラストチャンスという事になる。いつも2コインでプレイしている台で、最後の記念として、いくら使おうとオールクリアまで粘る。帰宅が遅れるのは、母に「納会で遅くなるから」と、嘘をついた。せめてこれ位は、いいでしょう……?
 帰宅途中、通勤経路から逸脱してゲーセンに向かう最後の日、自動ドアはいつもと変わらない表情で、私に道を開いてくれた。
 これが「左利きのレイフォーサー」の FINAL BATTLEだ。もう悲しいとは思わず、澄み切った戦意を、ただ一筋胸に抱いて、台に座りゲームを始めた。1コイン目はオーディンで終わってしまったが、自分なりに精一杯戦って、7面に突入した後、予期せぬトラブルが私を襲った。コインを入れたのに、スタートボタンを押してもコンティニューできない! そういう時は2枚目を入れれば良かったんだ、と気付く前に、カウンターが落ちていた。……駄目だ、やり直して同じ風景を見、エンディングまで粘る気力はもうない。
 これで、終わるのか――
 もう、今日が最後―――
 諦め切れずに筐体の前に立ち尽くしていた時、いつもは目もくれていなかった2P側のレバーが目に入った。X-LAYは2機存在する、赤と、青。頭の中に閃いたものがあった。
 ――1Pが駄目なら、2Pでクリアすればいい!
 気力を回復させるために、一度ゲーセンを出て夕食をとった。食後の時間稼ぎに本屋で立ち読みをする。ファミコン通信に掲載されていた、サワディノダさんのレイフォースのレビューを読んで、気合を入れた。あれは名文だ。
 ゲーセンに戻る。今度こそ本当に最後の最後、頼むよ、青いX-LAY……!! 私の願いが通じたのか、かつてなくいいプレイができた。さっきは息の根を止めてくれたオーディンさえも、軽々と潰した。今ここで1コインクリアできるなんて思っちゃいないけど、せめてファランクス、お前だけは絶対に倒してやる――やったっ!! 初めて1コインで奴を倒せた。ダイナモから先、コンティニューに次ぐコンティニューでも、タコミスというものは1つもせずに、コン・ヒューマンまで戦い抜いて、この店で最初で最後に迎えたエンディング――「Q.E.P.D.」は、私と2P側パイロットに贈られたファンファーレだった。ネームエントリーは「2252400」、ベストスコアが出ていた事に、終わって初めて気が付いた。
 席を立ち、2つ並んだ自分のスコアネームを見ながら、筐体にそっと左手の指を当て、心で呟いた。……さよならなんて言わない、ありがとう、ありがとうレイフォース。私はこの半年間、本当に幸せだった。ベストのプレイで締めくくれて、悔いは、ない。――考えられ得る最高の終わり方だ。
 当分ここには現われないけれど、できるなら私を待っていて、もし母の病気が治る事があったら、必ずお前の許に、帰って、くるから。いつか、ALLの文字を刻み付けられる事を夢見て――振り返る事なく、店を出た。

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