1994年5月6日

 弟と「ハイテクランド代々木」で待ち合わせ。こいつと一緒にゲーセン行くなんてサンクロⅡ以来だな。2人でレイフォースの筐体の前に立つ。照れがあるのか、彼はややぶっきらぼうな態度で私に椅子を寄越し、筐体に付いているヘッドホンを手渡した。
「CDと基板の音は全然違うんだから、よ――――く聴いとけよ! それから、超演出を見たって絶対声出すな。お前ゲーム見てるとうるさいからな。喋ったら殺す」
 ……それからの30分は、声を出すどころか息をつく暇もない未体験の連続だった。初めて見るゲームで、次々と流れ込んでくる映像と音楽を、全てきっちり把握する事はできなかったけれど――描き込みがすごくリアルで、意志あるかのように乱れ飛ぶロックオンレーザーが、この上なく美しかった。よくこんな無茶苦茶な攻撃を避けられるものだ、と感心しながら――… そして、静かに総ては終わった。
「……いやー、お疲れ様。凄いねェ」
「まぁね。4コインってのは俺としちゃベストだよ」
「ところで――あれってパイロットはどうなったんだ?」
「……死んじゃったんでしょ」
「ふぅん……」
 
 弟と別れて――(あの戦いの手前に、例えば、「彼女」の不安定な精神を支えた、精神科医のような存在もいたのだろうか?)などという事を考えながら、ふらつき歩いた市ケ谷の街は、初夏の日差しがまぶしかった。
 ……観測史上最も暑い、そして私にとっても最も熱い、1994年の終わらない夏が、静かに始まろうとしていた。

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