1994年6月17日

 あれから代々木で、渋谷で、池袋で、ぽちぽちとレイフォースをプレイしてきた。判らないなりに熱い、と感じられたから、1面で潰れてもやる事はやった、右手でボタンを叩く事にもすぐ慣れた。しかし休みの出かけた時にしかやれないのでは、上達もヘチマもない。何とか週末だけでも家の近くでやれないものか――と探し回ったが、地元新川崎や矢向・鹿島田は論外の情けなさ、元住吉にも、足を伸ばした武蔵小杉にもなかった。そこまでの縁なのだろうか……。
 そんな今日は、サンシャインで会社の飲み会だ。飲み会と言ってしまうには大規模な、200人位の大卒理系の集まりなのだが、立食というだけで、ただ飲んで食べるという点では変わりがない。退社後、同じ理系の仲間に誘われてタクシーに乗った。正面には夕景にサンシャインがそびえる、左側を過ぎようとしているのは、いつも通勤で歩いている茗荷谷駅だ――
 その直後、賑やかなきらめきが窓に走った。ひゅう、と私は少し息を飲んだ。
 ――こんな所にゲーセンがある。
 茗荷谷のゲーセンは今まで1つしか知らなかった。ガイアポリスを1回だけやった「ゲームプラザJOY BOX」だ。無論そこにはレイフォースはない。だから近所に探しもしたのだ。しかし、もう1軒。完全に通勤経路の反対側だった、今まで駅の反対側には行こうとさえしなかったのだ。
(……もしかしたら、レイフォースがあるかもしれない)
 体質上アルコールを飲めない私にとって、飲み会などという物は苦痛以外の何物でもない、まして次の目的地があるとなれば気もそぞろ。三本締めが終わるのももどかしげに、二次会に繰り出そうとする面々から逃げるようにして池袋駅に急ぎ、丸ノ内線に飛び乗った。2駅で茗荷谷。改札に向かう階段を、駆け上がろうとする足が重い。――こんな夜遅くに、私、何やってるんだろう。馬鹿みたい。そんな都合のいい事ある訳ない。ああやっぱりなかったよって、さらに疲れて帰るに決まってる。
 改札からおよそ70歩、ゲーセンに着いた。ドアに「GAME SPACE J&B」と書いてある。自動ドアをくぐって店内へ――中は表から見るよりずっと広くて、不思議に明るくて、いい意味で静かなのは、ゲーセンにありがちな不粋なBGMがかかっておらず、ゲームの音だけが流れているからだと気付いた。そして―――
(あった……)
 入って右側の列奥から4番目に、その筐体はたたずんでいた。それは私にとって奇跡的な光景のはずなのに、とても自然で――誰かがひどく暗い光景の中を戦っていた、多分6面あたりだったかと思う。
 まだゲーセンにいる事に慣れてなくて、すぐ出ていってしまったけれど、(これから、毎日逢えるんだ……!)と幸せに満たされた心には、ビルの明かりさえ輝いて揺れているように感じた。再び茗荷谷から丸ノ内線に乗って、家への帰途につく。ああ……発車時、ひゅうぅん、という高いパルスに、低いうなりが2つ重なる、この車両は典型的なVVVFの音を出す。隅に掲示されている車番は「02531」、この数字は営団地下鉄丸ノ内線「02」系・第「31」編成の「5」号車を意味する。
(私は――何て幸せなんだろう……!!)
 車窓から目を細めて仰いだ、茗荷谷−後楽園間の夜空は、闇がとても綺麗だった。

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