今日も仕事だ。ワープロのキーボードの上を、縦横無尽に指が走ってゆく。タタタタタタ…… ワープロオペレーター歴2年の上級者になると、キータイプは連続音をたてる、時には「ズダダダダッ!!」という音をさせる事もあり、歳のいっている人からは、機関銃だとも称される。――そう、脳に直結されたキーボード・インターフェイス。意識して指を使う必要は無い、私が望むだけで文字列は並び変換される。ワープロのディスプレイは私の思考に、CPUは頭脳に、そして文章は、牙となる!! ……かどうかはイマイチ自信がないが。
 これだけのキーを自在に操れるのに……何故、たかだか1レバー2ボタンが、思い通りにならないんだろう。それも基本的にはレバーだよね。レイフォースの場合、ショットは押しっぱなしで大丈夫だし、スコアを度外視すれば、レーザーも思い出した時にぱたぱたと射っていれば問題はないはずだ。右手はロクな事をしていない。――もしかするとこのゲーム、左利きの方が有利なのかっっっ!? ああああ。
 でも――ね、数回のトライでデュアルランスの顔を拝む事はできたんだ。自分には絶対にゲームはやれないと思ってた、高難度ゲームに関する言い回しで、「コインを入れる前に全滅している」というのは誇張ではない、とも。けどやってみたら違った。私なんかでも、できたんだよ! ……うん、数年扱ってきたキーボードと、1ヵ月そこらのコンパネを、一緒にしたら駄目だよね。精進あるのみ、頑張らなくっちゃ!
 ……それはそうと――デモ画面で「彼女」がスロットルレバーのスイッチを押しているのは、誰がどう見たって左手だよね。何故? 単に絵としての都合なのかな……実は左利きだったりして。


 私は鉄道が好きだ。女としては珍しいが、本能的に鉄道車両やレールに愛着を感じてしまう。どこが好きか……って、沢山あるけど、一番好きなシーンは? と聞かれたら、帰宅途中に見る、横須賀線西大井−新川崎間の車窓に、並走あるいは離合してゆく、東海道新幹線だと答える。白い列車たちが、その(パンタグラフ)に蒼い火花を宿し、闇を切り裂く一条の光となりて、人の命を乗せ、ひた向きに走る様が好きだ。
 今日もその風景を見ながら、ふと気付いた、それも一種の〈RAYFORCE〉ではないのかと。天を翔るものと、地を駆けるものという違いはあっても、銀色のレール(ハードワイヤー)の力もて
希望(のぞみ)」、「(ひかり)」、RAYFORCE.
 (くう)を赤く染め上げて、駆け抜けてゆく後ろ姿は――RED POWER TO PIERCE THROUGH.
 
 その日発売された「鉄道ダイヤ情報」という雑誌に、私の投稿が掲載されていた。
 その中に、「望みははるか光の彼方」という一節があった。


 スコアネームは「MNT」、ずっと前から決めていた。
 名字の「SNG」は弟が使っているし、名前の「TMK」では今一つ面白味に欠けるような気がする。そこで、パソコン通信のハンドルネーム「MINT」から1文字抜いて、「MNT」。この3文字は、本名のローマ字表記に含まれるものでもあるのだ。……といっても、1面はいつの間にか抜けていたけど、2面をクリアできない私じゃあ、ネーム入れなんて当分先だよねー、あっはっはー…… などと、一人で苦笑していた当日に、それは起きたのだった。
 茗荷谷のJ&B、そろそろパターンもわかってきて、ゲーム開始直後のイチニッパとニゴロが綺麗に決まった。でも1コイン目はポセイドンで終わる。即刻コンティニューというのは、1コインだとあまりにもあっけなく終わってしまうので、茗荷谷では2コインをディフォルトにしたのだ。少しでも先を見るために、それにその分だけインカム上がって、台が長持ちしてくれるだろうし……それでもやっぱり先は厳しくて3面序盤で終わる。コンティニューのカウント早く落として帰ろっと――と、突然現れた、見た事のないメッセージ、CD でしか聴いた事のない曲。
〈 ENTER YOUR INITIALS 〉
 うそ。
 ええええー、2面もクリアできない下手クソでも、ネーム入れってさせてもらえるものだったの!? 実はやり方知らない……のよね。レバーで選択するの? あ、動いてる。Aボタンで決定、いいみたい。M、N……T! 最後のAボタンを押した瞬間、創作ではなく誇張でもなく、指先から腕にかけて、電流のようなものが走った。初めて筐体が、私一人のためだけに応えてくれたのだ。
 〈 BRAVEST PLAYERS 〉の末席に、ちょこんと表示されている3文字を、思わずしげしげと観賞してしまった。……同じ茗荷谷の街で、初めてアーケードゲームをやった、ガイアポリスに1コイン入れてみた日から、奇しくもちょうど一年目。ゲーマーとしてのデビューバースディだった。


 ゲームミュージック・フェスティバル ’94! GMFは毎年ベーマガの記事を読むだけだったけど、今年はライブでレイフォースを聴くために、熱い真夏の風の中、日本青年館に足を運んだ。考えてみたら、コンサートって奴に自分で行くのはこれが初めてだ。生まれてから27年、コンサートにも行かなきゃあゲームもやった事がなかった、どういう人生送ってきたんだか。←アニメにトチ狂ってたんだろうが(一人ボケツッコミ)。
 ええっ、トップバッターがZUNTATA!? メインディッシュは最後にとっておきたかったんだけど……などと思いつつ開演を待つ。やがて場内が暗くなって、スクリーンに映し出される、長い髪の女性の後ろ姿、流れるのは「Q.E.P.D.」。いきなりこの曲で来た、ライナーの「彼女」だ! 曲が終わると同時に、鋭く、 “PENETRATION!”
 あの曲だ!! そう認識した直後、下腹部に大ボリュームのサウンドが叩き込まれた。最初に今一番の作品を持ってきた、観客は一瞬で総立ちだ。「PENETRATION」で始まったレイフォース・メドレーは、映像とシンクロしながら、休む間もなく「VISION」「INTO DARKNESS」「ATROCITY」と怒涛の如く流れてゆく。そして演奏が終わった時、ZUNTATAメンバーを万雷の拍手が包んだ。
 その他の作品群も、ゲームをやらない癖に何故か知っていて、馴染み深く聴く事ができた。後に続いたGAMADELICや、新世界楽曲雑技団スペシャルバンドの演奏も素晴らしく、最高の一夜を過ごした。


 パソコンネットで知り合った、M.Nさんと渋谷会館(名前だけ見ると真面目なビルのようだが、実は地上5階地下1階のゲーセン!)で待ち合わせ。2人同時プレイにチャレンジしてみるのだ! 私が定刻より少し前に着いて……その時別の男の人がレイフォースをプレイしていた。6面ボスでゲームオーバーになって、S.Iのネームを残したのを、(すごいなー)と思いながらギャラリーしてて――もう時間もないから自分じゃやーらない、とそのまま立っていたら、その男の人、こんな恐いの見た事ない、っていう目付きで私を睨んで、周りをうろうろし始めた。も……もしかしてこれはっ、よく聞くゲーセンでの暴力ってヤツ!? と身構えた私に、ついに彼が口を開いてぶつけた言葉は、
「――どこからいらっしゃったんですか?」
 ………。ごめんね、目付きだけで疑った私が悪かった。同じ東横線で来たんですね、私2面しか行けないですけど、誰でも最初は素人ですよ、なんて和やかな会話を交わして、彼はフロアを去っていった。
 
 間もなくM.Nさん到着。何はさておき2人同時プレイ。――うわー、レーザー4本ってパターンが狂ってキッツー。しかし1コインクリアの経験もある彼は上手さが違う(当たり前だ!)。アイテム分けてくれるし、砲台先回りして壊してくれるし……同じ画面の中にいると、話すよりも本心が伝わってしまうね――。元から下手な上に高次面のパターン知らない私は、オヤジコンティニュー炸裂で、ようやくコン・ヒューマンまでたどり着いた……ら、何と、いきなりコイン詰まり起こして、リセットかかりやがった――!! 悔し――――っ、こんな所で引き下がりたくないよぉ……という私の表情を見るに見兼ねてか、彼は「もう一度やりますか?」と言ってくれた。ご厚意に甘えて付き合って頂いて、今度はちゃんとエンディングを拝む事ができた。M.Nさん、本当に、ありがとおっ!
 ――その後彼とは、ゲームミュージックなどの話をして別れた。ゲーセンにはこういうコミュニケーションもあるんだな……と、貴重な体験をした一日だった。