代々木は奇跡の起こる街だ。レイフォースに逢った街、「彼女」の声を聞いた街、初めて3面をクリアした街、そして今日、ハイテク代々木で――うげー、8THで170万点なんてあり―――!? 100万点がやっとの私が、この店でネーム入れやるのは相当難しそ……などと思いながらのプレイ、何だかんだ言って1コインで、残機0ながらG.P.M.S.-2に到達。でも茗荷谷での実力じゃあ、悔しいけど今の私に勝てる相手じゃない……! それなのに、唐突に、左側の足2本が、外れた! 本体が谷底深く落ちてゆくのが、不思議に鮮やかに見えていた。
 ――うそ、勝っちゃった!!
 まぐれでも何でも、4面クリアだ。今まで私が出した事のない、140万というスコアが、確かに私が4面を超えたのだと告げている。「生で」見る5面の風景は無我夢中だった。そして2コイン目の残機が尽きて――ネーム入れをできずに台を立たねばならなかった事だけが、残念だった。けれど……
 同じこの店で、弟とレイフォースを見るので待ち合わせた時、弟が見た私の姿は、悲しいくらい小さかったそうだ。162cm、50kg弱、20代後半の女としてはそれなりの体格だが、猫背であるのと、圧倒的に男性が多いゲーセンでは、相対的に不利だったというのと、ゲーマーとしてのレベルがそうさせたのだろう。
 スコアネームは残せなくとも――今はきっと、少しは大きく見えるはずだ。


 唐突ですが皆さんは、超能力というものを信じますか?
 まあそこまで大げさなものでなくても、ちょっと勘のいい人なら、本屋やレコード屋やソフト屋や、あるいはゲーセンで(!?)体験した事があるんじゃないかって思います。そこに自分が求めている物が存在しているか否か、というのを、その場の雰囲気や、さわった時の感触で察知する、っていうの。本当に大事に思っている対象にしか反応しないセンサー。皮膚感覚で感じる磁力のようなもの。
 ……とまあ、変な前置きになってしまったが、いつものゲーセンに向かう途中、別のゲーセンから唐突に、そういった力を感じたのだ。確かに私を呼ぶ「声」がする、引っ張られるような感触がある。確かめてみなければ。――何なんだろうね、今私を、これ程までに強く求め続けてくれる物といったら、レイフォースただ1つしかないのに。この店には
なかったはずなのにね。
 それなのに、店を一巡したら見つかりました、隅にちょこんと鎮座しているレイフォース。あったじゃないの。外からでも分かるなんて、私って、すごい! といっても、その日に入ったかどうかは分からない、前から入っていて、今日たまたま錯覚しただけかもしれないけど(笑)。はいはい、そんなお遊びはここまでにして、台があったらやるしかねえっ!! 1プレイ50円ってのは嬉しいねぇ……けど、メンテがイマイチ、モニターの輝度も高すぎて目が痛くなりそう。極め付けは磁気バリバリで、白が紫に発色している、3面の雲もタイトルデモも赤紫色! 勘弁してぇぇぇぇ!!
 ――その後私がいつものゲーセンで、1プレイ100円のレイフォースをやり直した事は言うまでもない。


 会社からゲーセンに向かう途中の上り坂では、いつも色々な事を思い付く。何せ定時が18時だから、あたり一面すっかり闇の中、ライナーの「彼女」よろしく、歩きながらイマジネーションを解放して遊ぶ。きっと視覚情報が制限される事で、自分の中にある物が前面に出てくるからなんだろうね。今日は何が見えるかな……
 私が操作している X-LAYに乗っている「彼女」。苛烈な攻撃をくぐり抜けて目的地をめざす。しかし――ほんの一瞬、判断を誤って、気が付いたら避けられない弾幕の中にいた。迫る光弾、焼けてゆく機体、思わずあげる悲鳴は爆発にかき消されて――
 そこまで考えてしまって、慌てて今の思考を頭から追い出した。失敗した! 「彼女」の「死」なんて、考えたら人間に耐えられるようなものじゃない。それを正確に理解してしまったら、私は二度とレイフォースをプレイできなくなるような気がする。これ以上掘り下げてしまっては駄目だ。
 
 道中はまずかったけど、筐体の前に座ってしまえばしめたもので、今日もレイフォースを楽しんだ。最近は2コインでオーディンに対面できるようになっていた。しかし、なかなか抜けられない。先日弟に聞いてみた。
「SNGぅ―――、オーディンの第一段階のばらまき抜けられないんだけど―――」
「簡単だよ。イナズマ避けたら下にさがって、『道』を見付ければいい」
 ――これまでなす術なくブチ当たっていた弾幕に、その日、微かに「道」が見えた。左上斜め10時の方向、抜けたっ!! かつてなく X-LAYに入り込んだ自分がいた。だが、黄色い弾はアドリブでかわしたものの、速いレーザー、「まずいっ!!」
 ――そう思った次の瞬間、ふつっと総てが途切れた。Aボタンを連打して、コンティニューのカウントを叩き落としたはずなのだが、何一つ記憶に残っていない。ネーミングの画面を見て、ようやく我にかえった。……完全に、イッちゃっていた。本当の「死」というのは、案外こんなものなのかもしれない。悲鳴をあげる暇すらも与えられずに、一瞬の
うちに彼岸に渡っている  。宮部みゆきさんの「レベル7」という小説の一節を思い出して、背筋に冷たいものが走った。
〈レベル7まで行ったら、もう戻ってこなくてもいいんだよ――〉
 ……レイフォースだって7面までしかない。
 エリア7まで行ったら、もう戻ってこなくてもいいんだよ――。


「御茶ノ水リターンマッチ」という言葉がある。――私が勝手に造った(笑)。茗荷谷のゲーセンで不本意なプレイになってしまった時、コンティニューをせずに店を出て、御茶ノ水で途中下車し、別の店でやり直すというものだ。失敗してしまったという悔しさがあるからだろうか、御茶ノ水ではたいてい納得の行くプレイができていた。
 今日は用事で代々木だったのだが、やはり大ボケをやってしまい、このまま家に帰ってしまっては気が済まないと思った。そうだ、中央緩行線で御茶ノ水に出よう! 駅近くのゲーセンでリターンマッチ。例に漏れず調子は良かった、ほとんど死んでいるとしか思えない状況を、何故かことごとく抜けて、1コインでオーディンまで行った! しかもかなり持ちこたえてる。もしかしたらイケるかも……お願い、通して……!! と思ったが駄目だった。しかも、ディフォルトで用意している2コイン目を入れたら、2秒であっさり昇天しやがった! 貴っ様ァ、そんな事なら1コインで死んでおけ!! き―――――っ!!
 にしても、6面の攻撃は信じられない程キツい。はっきり言って狂ってる! ついにファランクスの猛攻の前に力尽きてしまった。
 それでも今までで一番いい部類のプレイができた事は確かで、帰りの丸ノ内線から横須賀線にかけて、ずうっと幸せに包まれながら、レイフォースの事ばかり思い返していた。品川に着いてもまだ抜けない……セミクロスシートに身を委ねながら、ふっと思った――私、レイフォースが大好き。鉄道も大好き。こうやって鉄道に乗りながら、レイフォースの事を考えている私は、もしかするとこの車両の中で一番――否、この世の中で一番、幸せな部類の人間なのかもしれない、と。目に入った車番は「モハ112−1510」、この車両の名前だ。モハ112−1510、できるならお前も憶えていて……今ここで、私がこうして、幸福に浸っていたという事を――。


 疲れ―――たよ―――――う。今日は「総務の一番長い日」だった。職場総出で年末調整の書類に、ひたすら判を押し続けること5時間、いつもは♪キンコンカンコン「お先に失礼しま―――す」な私が、会社を出たのは20時半を回っていた。でも、疲れている事が敗北の理由にならないのは、9月10日の3面初クリア時に実証済だ。茗荷谷にいるからにはゲーセンにGo!
 もう最近2面はノーミスで越えるけど、どうにも3面でミスをするクセが抜けなかったのが、今日はノーミスで抜けられた。いける! 4面……5面……そしてオーディン、勢いに乗って倒してやる!! 2コインでは会っている敵だった、だから自分に言い聞かせていたのは、「落ち着いてっ!」という事だった。黄色い弾もレーザーも分かっているんだから、良く見て避け切るんだ……! そして、爆発と同時に、2回目のエクステンド音が響くのを、初めて耳にした。
 2コインなら見てきた6面の風景を、1コインで見るのも初めてだ。戦いながら、不意に熱い思いが湧き上がった。私はまだ、生きている。降下しながら、THE END OF DEEP LAYERに、精神的に引き込まれてゆく自分を感じる……!! 2コインで浮遊戦車地帯まで、最長不倒をマークできた。ネーミングは2242200、AREA6。このスコアばかりは忘れる訳にはいかない! 1STのダブルスコアならもう、胸を張ってレイフォーサーだって言えるよね……!!
 駅前の中華料理屋で、遅い夕食を食べながらでも、込み上げてくる熱さが止まらなかった。遠い昔、ある同人誌で読んだ、大好きなフレーズを実感しながら――「乗り越えられなかった危機など一度もなかった/力を収束し――このまま前に進みなさい」。そうだよ……オーディンだって乗り越えられたんだ。それでももっと強くなりたい。大きくなりたい、広くなりたい――「彼女」を愛し、理解し、同化しながらも、飲み込まれないで包み込む母のように。