最近ようやく気が付いたのだが、ハイテク代々木のレイフォースは、「連射付き」というもののようだ。元からオート連射のゲームなので分かりにくかったのだが、代々木では空中物を速く壊せる、よく先に進む、と思っていたのは、そういう理由だったのだ。バカみたいに強いショットにものをいわせて、今日は「おらおら―――!!」とばかりに、存分に憂さ晴らしをして楽しんだ。
――茗荷谷のゲーセンにはもう通えない。でも代々木には2週間に1回は確実に用事があるから、年が明けてもわずかながらレイフォースをやる事はできる。……そうよ、後ろを向いて何になるの? この先やれない事を悲しんで、今台があるのを楽しめないんじゃ意味がない。
帰らない過去より、分からない未来より、ただ現在、そこに存在する弾を避ける事、敵を倒す事を通して、生き方さえも教えてくれるゲーム、総てを前向きに染め変えてくれる魔法――レイフォースに逢えたのは一つの奇跡だった。
今日は1994年の仕事納め。これでもう今年は茗荷谷に通う事はない。すなわちゲーセンに通う事もない。――年が明けて母が入院したら、ゲーセンには通えなくなる以上、今日がラストチャンスという事になる。いつも2コインでプレイしている台で、最後の記念として、いくら使おうとオールクリアまで粘る。帰宅が遅れるのは、母に「納会で遅くなるから」と、嘘をついた。せめてこれ位は、いいでしょう……?
帰宅途中、通勤経路から逸脱してゲーセンに向かう最後の日、自動ドアはいつもと変わらない表情で、私に道を開いてくれた。
これが「左利きのレイフォーサー」の FINAL BATTLEだ。もう悲しいとは思わず、澄み切った戦意を、ただ一筋胸に抱いて、台に座りゲームを始めた。1コイン目はオーディンで終わってしまったが、自分なりに精一杯戦って、7面に突入した後、予期せぬトラブルが私を襲った。コインを入れたのに、スタートボタンを押してもコンティニューできない! そういう時は2枚目を入れれば良かったんだ、と気付く前に、カウンターが落ちていた。……駄目だ、やり直して同じ風景を見、エンディングまで粘る気力はもうない。
これで、終わるのか――
もう、今日が最後―――
諦め切れずに筐体の前に立ち尽くしていた時、いつもは目もくれていなかった2P側のレバーが目に入った。X-LAYは2機存在する、赤と、青。頭の中に閃いたものがあった。
――1Pが駄目なら、2Pでクリアすればいい!
気力を回復させるために、一度ゲーセンを出て夕食をとった。食後の時間稼ぎに本屋で立ち読みをする。ファミコン通信に掲載されていた、サワディノダさんのレイフォースのレビューを読んで、気合を入れた。あれは名文だ。
ゲーセンに戻る。今度こそ本当に最後の最後、頼むよ、青いX-LAY……!! 私の願いが通じたのか、かつてなくいいプレイができた。さっきは息の根を止めてくれたオーディンさえも、軽々と潰した。今ここで1コインクリアできるなんて思っちゃいないけど、せめてファランクス、お前だけは絶対に倒してやる――やったっ!! 初めて1コインで奴を倒せた。ダイナモから先、コンティニューに次ぐコンティニューでも、タコミスというものは1つもせずに、コン・ヒューマンまで戦い抜いて、この店で最初で最後に迎えたエンディング――「Q.E.P.D.」は、私と2P側パイロットに贈られたファンファーレだった。ネームエントリーは「2252400」、ベストスコアが出ていた事に、終わって初めて気が付いた。
席を立ち、2つ並んだ自分のスコアネームを見ながら、筐体にそっと左手の指を当て、心で呟いた。……さよならなんて言わない、ありがとう、ありがとうレイフォース。私はこの半年間、本当に幸せだった。ベストのプレイで締めくくれて、悔いは、ない。――考えられ得る最高の終わり方だ。
当分ここには現われないけれど、できるなら私を待っていて、もし母の病気が治る事があったら、必ずお前の許に、帰って、くるから。いつか、ALLの文字を刻み付けられる事を夢見て――振り返る事なく、店を出た。
〈終章――丸ノ内線02系第31編成〉
年は明けた。1994年の夏は、有無を言わさずに終わってしまった。今日は仕事始めだ。帰りにゲーセンに寄れないのは悲しいけれど、仕方のない事だから。
心残りに思っていた事が1つある。……02系第31編成に会いたかった。茗荷谷で初めてレイフォースに逢った夜、私を迎えに来てくれた編成には、並ならぬ思い入れがあったのだが、02系は50連弱存在する(注・当時。今は50連を超えている)とはいえ、エンカウント率は低い方で、第31編成に会ったのは、2コインで G.P.M.S.-2 まで行けるようになった頃に、一度きりだ。
今度第31編成に会えたら、どんな事を話そうか。――思い続けて果たせなかった。
会社からの帰り道、私を呼ぶ声が聞こえたら辛いばかりだから、センサーを切って茗荷谷駅の改札を抜けた。階段を下りてホームに出る。反対側のホームに02系が止まっている。こんばんは、お前は何番? ――次の瞬間、私の網膜に突き刺さった車番は、「02631」。
第31編成じゃないか――――!!
驚きのあまり身体はその場に立ち尽くしたまま、言葉ばかりが頭の中をぐるぐると駆け回った。――何で、何でお前がここにいるんだ。よりによって、私がゲーセンに通えなくなったその当日に。ずっとお前に会いたいと、思い続けてきたけれど、遅かったよ。今お前に話せる事なんて、もう何一つないんだ……!!
……最高の終わり方をしたから、悔いはないと言った。だけど…っ、志半ばでゲーセンを去らなければならない事が、悔しくない訳が、悲しくない訳が、ないだろぉっ!!
涙でにじんだ「02531」の文字が、ゲーセンの方角へと走り去っていった。
ああ―――私はあの時から、ずうっと第31編成に乗ったまま、レイフォースという長い長い夢を見ていて―――今、同じ現実の茗荷谷駅のホームに、降り立ってしまったのかもしれない。
……レイフォースをやりにゲーセンに通い詰めた私の日記は、これでひとまず終わる。
それからひと月も経たないうちに、茗荷谷からレイフォースは姿を消した。だから、どっちみち時間切れだったという説もある。私がレイフォースをやれるのは、もう2週間に一度の代々木だけ――可哀相に、って思う? 心配しないで、そんな状況には耐えられなくて、基板、買っちゃったから。以前ガイアポリスのノベライズをやった時、モニターとコントロールボックスを、揃えていたのが幸いした。同じ縦画面だから、ハーネス差し替えるだけでOKだった。……だったらそんなに騒ぐなよ、って、怒られても仕方ない。でも、できるならゲーセンでやる事にこだわりたかった、それだけは、分かってくれるよね……?
基板とハイテク代々木でやり込んで、この日記をまとめている95年11月現在では、実力的には1コインで7面に行けるかどうか、という所まで漕ぎ着けた。連付きでは11月8日に、御茶ノ水で1コインクリアをマークしている(この時の事は別の機会に別の場所で)が、これは陸上で言う追い風参考記録のようなもので、本当のクリア=連なしでのクリアには、まだ当分時間がかかりそうだ。
1コインクリアはもちろんとして、あまりに高過ぎる目標だけれど、気力が続くなら、ノーミスクリアを目指したい。それこそが真実の「彼女」、「本来『彼女』に、残機もコンティニューもありはしない」のだから。――たとえ九分九厘、その先を切り拓く力が、自分にはないとわかっていても、残り一厘に、私は賭けてみたいと思う……!!
時の果てのその果てで――――
私がレイフォースをノーミスクリアできる日まで、この日記は完結しない。
……そして未完のまま終わるような気がする(苦笑)。