1コインクリアというのは、ゲームをプレイする上で、誰でもまずはめざす目標だろう。レイフォースに関するこの文章も、そこに至るまでの軌跡の一つだ。
 
 総ては1枚の CD から始まった。それはそれは熱いストーリーと設定資料が付いていて、聴くだけでは気が済まなくなってしまった、パイロットの「彼女」の想いを知るために、プレイしてみたくなったのだ。
 
 ロクにゲーセンに足を踏み入れた事のなかった私が、初プレイに踏み切ったのは、94年6月3日の事である。左利きのド素人が、最初にしなければならなかったのは、右利き用にできているコンパネに、身体を合わせる事だった。その次は、1面で訳も判らずに死にまくる事だった。英語で左利きを意味する、“LEFTHANDED” という単語には、「不器用な」という意味がある、不器用な左利きのレイフォーサー。
 
 仕事帰りに毎日ゲーセンに通い詰め、大体1ヵ月当たり1面のペースで攻略していった。とにかく先を見たい私が構築したパターンは、当然の如く安全第一速攻破壊を目的とした物だった。そんなプレイをして何が楽しいんだ、とゲーマーの弟からは馬鹿にされた。――しかし「彼女」が、自分の身を危険にさらしてまで、ロックオンレーザーのフルスペックを、試そうなんてするだろうか? スコアはどうあれ先に進む事が、自分が「彼女」に近付く道であると、私は信じた。(但し、私には点稼ぎを否定する気は全くない。そこまでやれる人達の事は逆に尊敬している)
 
 ところが昨年末、予期せぬトラブルが私を襲った。母が病気で入院してしまい、家族の食事を作るために、ゲーセン通いを断念させられたのだ。自分が家事を強制される「女」である事を、その時ほど呪った事はない! ……しかしそれで諦められるような物ではなかった。ゲーセンに通えなくなったのなら、残る手段は一つ、基板購入である。主な舞台を家に移して、私の挑戦は続けられた(弟の絶大な尽力に、ここで深く感謝しておきたい)。家事負担のせいで、プレイ頻度と上達速度はガクンと落ちた。半年間6面を抜けられなかった時は、正直もう限界かと思った。だが、1回まぐれでラスボスまで行ってから後、執念で食らい付き続け、6面から7面へ、じりじりと到達距離を伸ばしていった。
 
 そして、95年11月8日、東京――。
 
 その夜たまたま、食事作りから解放されていた私は、御茶ノ水のゲーセンへと足を運び、レイフォースをプレイした。4面ボス前で1ミス、6面で2ミスして、残機1で7面に突入した。私にとってはありふれた現状のプレイだった、そこまでは……
 
 いつやられてもおかしくない7面の猛攻撃を、一度も食らわずに抜けて、タワーを昇っていった。残機1でラスボスに着ければ、まだ望みはあるかもしれない――だが、アイテムラッシュの直前で、痛恨の4ミス目をやってしまった。……もう、駄目だ……!! 最強装備の最後の1機でラスボスに対峙した時、必死になって「彼女」に謝っている自分がいた。ごめんなさい、ここまでたどり着いていながら、なす術もなく貴女を殺してしまうであろう、私を許して――!! と。
 
 ラストバトルが始まった。第一段階の嵐の弾幕を、奇跡的に避け切った。第二段階は安地で突破。第三段階、輪は抜けられたのだが、本体を撃ち切る前に 3WAY が来てしまった。初めて1コインで見るその攻撃は、えげつないまでに高速かつ高頻度で、限界の緊張の中、弾避け以外に何も考えられなかった。2回目の輪を前にして、必死でレーザーを撃ち続けた。《お願い、もう壊れて――!!》
 
 不意に視界が赤く染まった。爆発する「Con-Human」――私は使命を完遂したのだ。ついにただの一度も、あの耳障りなコンティニュー音を聞く事なく。身体の芯がずっと震えていた。心臓が音高く鳴っていた。これが本当のエンディングなんだ、何一つ、見逃しても聞き逃しても駄目だ……! ネームエントリー、ALL の3文字が順に点滅している。CELEBRATION だ、ここまで登り詰めた私を祝福してくれているんだ。ぎこちない動きで入力を終え、店を出て、突き上げる感動に空を見上げた。……私は左利きだけど、もう不器用なんかじゃないよ――!!
 
 レイフォースをやり始めてから1年5ヵ月、正確には524日目。生まれてこの方、ゲームという物をやった事のなかった人間が、一つのゲームを、しかも高難度で知られたゲームを、クリアする事ができたのだ。努力さえすれば不可能はない、なんて陳腐かつ残酷な事はいわない。ただ、やろうとするゲームに充分な魅力があって、やり続けられる環境に恵まれたなら、後はどれだけの熱意を注ぎ込めるかが総てを決めるのだ、とは思う。
 
 ……母は入退院を繰り返していて、私がゲーセンに通える保証は、もうどこにもなくなってしまった。だからレイフォースが、私がまともにやり込めた、多分最初で最後のゲームになる。
 
 一生あるいは死んでも忘れない、などという無責任な台詞は、口が裂けても吐かない。その時どんなに大切に思っていても、今となってはどうでもよくなってしまった物は山ほどあるし、憎んでしまった物すらあるから。だがしかし、私がこうまでレイフォースを愛し抜き、やり込み続けてクリアした、という事実だけは、誰がどんな力をふるおうとも、絶対に覆す事はできない!!
 

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