ようやく、長い長いトンネルを抜けた――1コインで2面をクリアできた。何故2面を超えられないのだと、ずっと悔しい思いをしていた。ちゃんとできれば抜けられるはずなのに、どうしてそれだけの事ができないの!! 何をすべきか分かっているのに――否、本当の意味で分かってないから墜とされるんだ。でも、やっと。本当に分かった時に、容赦もない代わりにお世辞もなしで、目に見える結果として筐体は応えてくれる、どこまでも前向きな営みの対価として……。悔しいと思ったって泣きたくなったって役に立たない、戦い続けるしかないんだ。
 ただ、その「続ける」というのはね……本来「彼女」に残機もコンティニューもない、それどころか、分かっているパターンを戦うという事態すらないのだ。見た事もない風景に突っ込んでいって、ノーミスで全面クリアするのが真実の「彼女」。「彼女」に近付くためにゲームを始めたけれど、実は繰り返すほどに遠ざかっているのか――ううん、ごめんね私非力だから、繰り返し見させてもらうけど、それはその度貴女に近付いたプレイをするためなの――どうか、許してね……。


 今日はin 代々木。最近は1コインでギガと対面して、……負かされて(涙)、2コインで4面序盤で立て続けにやられるってパターン。今回も例に漏れずギガまで来た時には残機0。(一騎打ちよ――多分勝てないだろうけど)が、予想外に持ちこたえている最中に、不意に熱い思いが込み上げた。残機が幾つだって、私はまだ戦場にいる事を許されている。ミスさえしなければ、それで全面クリアする事だって可能なはずだ。昔好きだった八神純子さんの、「LONELY GIRL」という歌を思い出す。「強くなりたい/あなたの明日を 支えるくらい/罪さえ 許せるくらいに」――たった独りで戦っている、「彼女」に明日などなくっても…… 負けない、最後の最後まで諦めたりしない! 「彼女」の設定数あれど、今 X-LAYを操っているのは私、ここにいる私が、RAYFORCEなんだから……!!
 ……気合いだけで勝てたら世の中苦労しませんね、やっぱり負けちゃいました、とほほほ。でも、気が付くと無意識に敵機にサイトが合っている、自分が「彼女」に限りなく近付く瞬間がある、そんな4面を戦えて、嬉しかった。


 仕事が終わって、今日も夕闇の中をゲーセンへと急ぐ。そりゃ「仕事」だもの、忙しかったり疲れたりする事もあるけど、少なくともモニターの向こうみたいに、一瞬気を抜いたら殺されるって世界じゃない。総務のOLなんてね……ホント甘い世界に生きさせてもらっている――
 そんな事を考えながら、播磨坂を上り詰め、春日通りで信号が変わるのを待つ。目の前で闇の中を、たくさんの車がびゅんびゅん走ってゆく。光るライトが……まる、で……もしそれに当たったら――ふっとその光景に1~2面の風景がオーバーラップした時、気が付いた。
 闇に走る車のライトは、敵弾と何等変わりがない。当たれば死ぬ。
 なんて事だ――現実にだって命の危険はいくらでもある、ただこのガードレールに守られているだけだったんだ。「いいひと。⑤」の一節が、鮮明に想いだされた。「いいか、人間は守られている。/国に守られ法に守られ、社会通念に守られモラルに守られ、/自分の周りにある無数のものから守られている。/だがしかし、それらに守られているうちは、生かされているだけだ。/自ら生きようと思ったものだけが、その枠を一つ一つはずしていく。/その時悩み、つまづいて、カベを感じることができるのだ。」
 私も枠を1つ外して、毎日壁を感じまくっている。……ふと思い立って、ガードレールの外を歩いてみた。物凄く恐くて、数歩で中に戻ってしまった。モニターの向こうなら、平気でいるのに――
 ゲームと現実の区別が付かなくなるなんて、何処の誰が言い続けているの? レイフォースでフッ飛ばされたって、例えば格闘ゲームで真っ二つにされたって、自分は何のダメージも受けない所に、現実とゲームを峻別する見えない壁があるのに。そして今日も私は数回、「彼女」を殺してしまう事になる。その痛みを感じられない事を、申し訳ないと思いながら。


 友人のN.Yさんと、幕張メッセに文房具の展示会を見に行った。無茶苦茶広かった、無茶苦茶面白かった。そして、無茶苦茶疲れた。新宿で彼女と別れた時にはもう、よれよれ。でもせっかく東京にいるんだもん、レイフォースやって帰りたいよ――よし、ここから1駅の代々木だ! という事でやってきましたハイテク代々木。ゲーセンにいる事にもようやく慣れて、人の多い店でも平気になった、それにヘッドホン付きなんだもん!
 展示会の大荷物を床に置いて、ゲームスタート。疲れも何も感じなくなって、ただ意識がモニターの中で戦う事に集中していく、このシャープな感覚が好き。自分が見えなくなったら死んでしまうから、気を付けて! ロックオンに先走って自機を見失わないで! と言い聞かせながら――しかも今日は、調子いい! ギガ……今日こそいける? ――やったっ!! えっ、聞いた事のないSE、これが「エクステンド」っていうの!?
 1コインでたどり着いた4面の攻撃はあまりに苛烈で、そこから先は平凡だったけど、ゲーセンから地上に出る階段で、思わずスキップしていた。――疲れ果てた体でも、諦めなくて良かった、1面で死んでた私が、1コインで折り返しの4面まで来られたんだ! 今日は最高!! と。


 話は休み前の夜から始まる――仕事の打ち上げで、職場一同で茗荷谷で飲んだ(酒の飲めない私がシラフで通した事は言うまでもないが)。帰り道、バスで後楽園に出るという皆から離れて、私はいつものゲーセンに行こうとした。まだコンスタントに3面クリアできなくて、2コイン目で G.P.M.S.-2 に追い返されるこの頃の日常、今日はどう
してもギガを潰したい――。職場でただ1人、私のゲーセン通いを知っているS.Nさんが、声をかけてきた。
「新宮さあーん、バスはそっちじゃないよおー」
「済みませぇん、今日はどうしてもゲーセンに寄って帰りたいんですぅ」
「何でぇ?」
「明日からゲームに関する文章を書きたくて。……多分私の最高傑作になります」
 じゃあ書けたら見せてね、と、彼は私を見逃してくれた。
「頑張ってねー!」
「どうもぉー!」
 手を振る彼に笑顔で答えたその夜、気持ち良く1コインでギガを倒す事ができた  。
 
 そんな訳で、懸賞論文「左利きのレイフォーサー」である。
 弟が以前「去年が『私をガイアポリスへ連れてって』なら、今年は『私にコン・ヒューマンを倒させて』か?」と茶化してくれたが、本質的には合っているけど、そんなとこまで全然行ってね―――よ。……まぁそれはともかく、3連休の間、延々と文章を書き続けて推敲しまくって、しこたま疲れた。どうやっても枚数が足りなかったけど、最大の気合でやれるだけの事はやった。思い入れには絶対の自信がある。これが掲載されないとしたら、選考委員が余程ひねくれているか、郵便事故で届かなかったかのどちらかだ、とここで断言しておく(結果:「左利きのレイフォーサー」は、ゲーメストNo.147 P.128に掲載されている。豪語しておきながら3席の2番目、掲載ライン最低線ギリギリという、薄氷の勝利だった)。
 休み明け、コピーした原稿をS.Nさんに見せた。彼は一読してにっこり笑った。
「すごいなー。――生き甲斐になっちゃってる」
 
 余談ではあるが、「左利きのレイフォーサー」を書いている間中、私はTシャツ代わりに、高校時代の体操服を着ていた。「TAMA」という。神奈川県立多摩高等学校。本当だってば。