CYBERNETICS LINK SYSTEM = C.L.S. 搭載の、汎用型攻撃機 X-LAY は、3機製造されたが、その内の1機は、精神に変調を来たしたパイロットにより、自爆した――。
 

 実験船の片隅で、緑色のパイロットスーツに身を包んだ青年は、X-LAY の飛行訓練を終えて、立ったまま休憩しながら、大きな窓から宇宙を眺めていた。
 と、後ろから子供の声が彼を呼んだ。
「お兄ちゃん!」
 振り向けばそこに、彼を笑顔で見上げる、まだ年端もいかない小さな少女がいた。
(この機密区画に、何故こんな子供が……!?)青年の疑問に、少女の後ろからついてきた、女性士官が答えを与えた。
「すみません、何でも軍上層部の方のお孫さんだそうで、どうしてもあなたに会いたいと――」
 少女が遠慮がちに女性に言った。
「私、お兄ちゃんと二人きりで、お話ししたいの……」
 とまどう女性に、いいから、と返事をして帰ってもらい、青年は少女と向き合った。
 真っすぐに見詰める少女の眼差しに、青年は、はっと強い既視感をおぼえた。きらきらと輝くエメラルド色の瞳は、彼がずっと前から、ひどく親しんできたものと思えた。会った事もない、少女なのに……?
 少女は一つ深呼吸をして、青年に語り始めた。
「……私ね、生まれつき目が見えなかったの。他の人の目を移植してもらう以外に、見えるようになる方法はないって――それで、おじいちゃんのおかげで、お兄ちゃんの目を……もらったの。だからどうしても、会ってお礼が言いたかったの……!」
 あぁ、道理で――と青年は納得した。かつて自分の物だった目が、自分自身を見詰めている奇妙な光景。C.L.S. に適合するために捨てた、X-LAY の加速に耐えられない、弱い生身の体には、臓器移植という使い道もあったのか……と、彼は妙に感心してしまった。
 少女の手が、そっと青年の手を包んだ。
「お兄ちゃん、サイボーグなんだよね。機械なの? この手も、……その目も」
「うん……脳と脊髄以外は全部、ね」
 少し淋しそうに答えた彼を、全身で慰めるかのように、少女は話し続けた。
「何だか私が、お兄ちゃんの体を奪っちゃったみたいで、本当にごめんなさい……! でも、目が見えるようになった時、とっても、嬉しかったの。まぶたを開いた時ね、(RAY)が差し込んで、周りを包んでくれた事、きっと一生、忘れない……!!」
「光」という単語が、青年の胸を打った。
「ありがとうお兄ちゃん、私に光をくれて。戦うのは大変だろうけど、頑張って!」
「――ああ!」
 青年は、本当に嬉しそうに、少女を抱き上げた。女性士官に連れられて、彼女が去っていった後も、彼は温かな気持ちで、しばらくその場にたたずんでいた。
 ……彼女に与える事のできた「光」を、自分は人類全体に与えなければならない。そのために今、飛行訓練を繰り返している機体の開発名称は、「希望の力(RAYFORCE)」。
 胸に手を当て、瞳を閉じて一人思った。
(自分は、なれるだろうか? RAYFORCEに――。)
 

 しかし、あまりに機械化されすぎた青年の肉体は、やがて彼から「人間」という自己認識を奪っていった。C.L.S. により機械に直結され続けた事が、彼の自我を崩壊させていったのだ。
 そして、青年の精神の変調が、決定的なものとなり、実験船を攻撃、破壊してしまった時、混乱と苦痛と破壊衝動とが荒れ狂う、彼の意識の奥底で、一筋、少女への想いが閃いた。
〈あの()も、あの娘の親戚も、自分の暴走に、これ以上巻き込んではならない――!!〉
 ――青年は、残された意志の力を限界まで振り絞って、荷電粒子ビーム誘導システムのリミッターを強制解除し、自分自身にロックオンレーザーの照準を合わせた。
 ビーム砲から放たれた、8本の光が、赤い弧を描いて、緑色の X-LAY に突き刺さり――機体は大爆発を起こして、木っ端微塵に砕け散った……


C.L.S.被検体、自爆の瞬間!!

 その瞬間、友達とお喋りをしていた少女の目から、ぼろっと涙がこぼれ落ちた。
「どうしたの!?」
 慌てて尋ねた友達に、
「わかんない――悲しい訳じゃないのに、涙が、あふれてくるの……。…なぜ?」
 そう答えて空を見上げた少女の、エメラルド色の瞳は、涙に濡れてなお、澄んだ輝きを放ち続けていた。
 

 C.L.S. 搭載の汎用型攻撃機 X-LAY は、3機製造されたが、その内の1機は、精神に変調を来たしたパイロットにより自爆した。
 しかし、彼の目は少女の中で生き続け、残り2機の X-LAY が、人類に勝利をもたらし――彼女はやがて、次代を担う生命を、産み育んでゆく事になる。
 

〈END〉

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